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東京高等裁判所 昭和58年(行コ)6号 判決 1984年11月20日

控訴人(原告) 山川真一

被控訴人(被告) 所沢税務署長 国税不服審判所長

主文

本件控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一申立

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人所沢税務署長(以下「被控訴人税務署長」という。)が昭和四八年一二月一八日付けで控訴人に対してした昭和四五年分以後の所得税についての青色申告書の提出承認を取り消す旨の処分(以下「本件青色承認取消処分」という。)を取り消す。

3  いずれも、被控訴人税務署長が昭和四八年一二月二四日付けで控訴人に対してした、

(一) 昭和四五年分所得税を一六万三一〇〇円とする更正処分のうち、現に効力を有する一四万四七〇〇円の限度分中二万八二〇〇円を超える部分及び過少申告加算税六七〇〇円の賦課処分のうち現に効力を有する二三〇〇円に係る部分、

(二) 昭和四六年分所得税を二〇万七六〇〇円とする更正処分のうち二万七九〇〇円を超える部分及び過少申告加算税八九〇〇円の賦課処分のうち現に効力を有する五七〇〇円に係る部分、

(三) 昭和四七年分所得税を一六万七二〇〇円とする更正処分のうち三万三〇〇〇円を超える部分、

をいずれも取り消す。

4  被控訴人税務署長が昭和四九年八月九日付けで控訴人に対してした、昭和四八年分所得税を三八万八三〇〇円とする更正処分のうち一二万六五〇〇円を超える部分及び過少申告加算税一万三〇〇〇円の賦課処分を取り消す。

5  いずれも、被控訴人国税不服審判所長(以下「被控訴人審判所長」という。)が昭和五一年三月二三日付けで控訴人に対してした、

(一) 被控訴人税務署長の本件青色承認取消処分に対する審査請求を棄却する旨の裁決、

(二) 被控訴人税務署長の前記昭和四五年分所得税更正処分(ただし、所得税額二万八二〇〇円の限度部分を除く。)及び右更正処分に伴う過少申告加算税賦課処分(ただし、同被控訴人に対する異議手続により一部取り消された部分を除く。)に対する各審査請求についての裁決のうち、右各処分の各一部を取り消した部分を除く部分、

(三) 同被控訴人の前記昭和四六年分所得税更正処分(ただし、所得税額二万七九〇〇円の限度部分を除く。)及び右更正処分に伴う過少申告加算税賦課処分(ただし、同被控訴人に対する異議手続により一部取り消された部分を除く。)に対する各審査請求を棄却する旨の裁決、

(四) 同被控訴人の前記昭和四七年分所得税更正処分のうち所得税額三万三〇〇〇円の限度部分を超える部分に対する審査請求を棄却する旨の裁決、

をいずれも取り消す。

6  訴訟費用は、一、二審とも被控訴人らの負担とする。

との判決を求める。

二  被控訴人ら

各控訴棄却の判決を求める。

第二主張

当事者双方の主張は、次の一のとおり加除訂正をし、同二、三、四のとおり追加をするほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決事実摘示の加除訂正

1  三丁裏末行の「青色申告書」を「青色申告者」と訂正する。

2  一一丁表八行目の「受理」を「承認」と訂正する。

3  一四丁表末行の「同年五月一三日」を「同年五月二三日」と訂正する。

4  一五丁表四行目の「八四万八、〇〇〇円」を「八四万八〇〇六円」と訂正する。

5  同裏八行目の「七四九万八、二六四円」を「七四九万八二四六円」と訂正する。

6  一七丁裏七行目の「別表二の二」を「別表二の2」と訂正する。

7  二〇丁裏七行目の「被告主張」の次に「(別表三の該当欄記載のとおり)」を加える。

8  二一丁表四行目及び同裏一、二行目の各「過少申告加算税賦課処分」をそれぞれ削除する。

9  同表七行目の「認める。」の次に「控訴人の昭和四七年分所得額の算定基礎は、別表三の「被告所沢税務署長主張額」欄記載のとおりである。」を加える。

10  二二丁裏三行目の「被告主張」の次に「(別表四の該当欄記載のとおり)」を加える。

11  二三丁表三行目の「認める。」の次に「控訴人の昭和四八年分所得額の算定基礎は、別表四の「被告所沢税務署長主張額」欄記載のとおりである。」を加える。

12  同表七行目の「一七万円」を「一九万二五〇〇円」と訂正する。

二  控訴人の追加主張

1  (原判決三丁裏3(一)の主張の補充)

控訴人又はその実弟山川貞治(以下「貞治」という。)は、昭和四八年八、九月、六回にわたり所沢税務署の当該職員の来訪を受けたが、そのうち五回は、事前の通知・連絡もなく、仕事に追われる零細な自営業の控訴人にとつて即応できるものではなかつた。このような方法による税務調査は社会的相当性を欠き、これに対応できなかつたからといつて調査拒否と評価されるべきではない。控訴人は、他の一回については事前の通知を受けたので、この折には、法規に従つて備付け、記録及び保存(以下「備付け等」ともいう。)をしている帳簿書類を準備し、これを当該職員の面前に提示してその存在を確認させており、調査を理由なく拒否した事実はない。控訴人側は、右職員に対し、口頭で調査理由を問いただしたことはあるが、右職員が右帳簿書類を手に取るのを物理的に阻止したことはない。右職員は、控訴人が提示した右帳簿書類に手を伸ばしてこれを取ろうとすらしなかつたのであるから、この折の状況をもつて、不当な調査拒否とされるべき理由はない。

2  (原判決六丁表(二)の主張の補充)

所沢税務署の当該職員は、前記のとおり控訴人に対する税務調査に臨んだが、その理由とされている、控訴人の申告に係る所得額が同業者に比較して低いということはない。控訴人の当該各年度分の申告は、青色申告者のものとして必要かつ十分な帳簿に基づいて計算した適正な所得額についてなされており、低額に過ぎるということはない。

3  (原判決七丁表(三)の主張の補充)

所得税法一五〇条二項が青色申告承認の取消通知書に理由の附記を要求する理由は、右承認の取消が、右承認を得ている納税者に認められる納税上の種々の特典を剥奪する不利益処分であることにかんがみ、取消事由の有無についての処分庁の判断の慎重と公正妥当を担保してその恣意を抑制するとともに、承認の取消の理由を処分の相手方に知らせることによつて、その不服申立に便宜を与えるためである。したがつて、この場合要求される附記の内容及び程度は、いかなる事実関係に基づきいかなる法規を適用して当該処分がされたかを処分の相手方においてその記載自体から了知し得るもの、すなわち、単に同条一項一号に該当するということだけでは足りず、備付け、記録又は保存のいずれに問題があるかを特定してその内容を具体的に記載すべきはもとより、省令の定める義務のどの条項に違反するかまで、事実と該当条項を特定して記載すべき必要があるといわねばならない。

本件青色申告承認取消の決定通知書の記載は、同条二項が要求する理由附記としては不十分であり、違法である。

4  (原判決七丁表(四)の主張の補充)

青色申告承認の取消通知書に処分の理由を附記すべきものとされている理由は、前記のとおりである。本件についていえば、控訴人は、被控訴人税務署長が、控訴人においては、所定の帳簿書類の備付け等をしていないと認定した事実を本件青色申告承認取消処分の通知を受けて確知できたわけであるが、右認定が誤りであり、所定の帳簿書類を備え付け、記録し、保存している事実を主張・立証するため、被控訴人税務署長の調査に応じてこれらを提出したのであつて、これにより、原処分の理由のなかつたことが明らかとなつたのである。にもかかわらず、原処分の効力には影響がなく、これを取り消さないという結果を容認するならば、再度の考案を求めて原処分庁に対して不服申立の機会を認めた異議申立制度の本質に背くものといわねばならない。

本件と同様、調査の際、帳簿書類を提示しなかつたことを理由に青色承認取消処分をした事案に係る異議申立段階で帳簿書類の存在を認め、当該取消処分の取消をした事例も存するのである。

5  (原判決一四丁裏2(一)の主張の補充)

(一) 原判決添付別表一の2のうち、「1武蔵野金属工業所」の分は、山川芳三が友人から頼まれて控訴人の作業所が休みの時にアルバイトとして稼働したものであつて、その対価は、右芳三に支払われており、控訴人の収入ではない。

右芳三は、手に技術を持つ職人であるから、材料仕入を要しない工賃稼ぎを独力で行うことは十分に可能であり、しかも、年間を通じてみればわずかな仕事量であるから、控訴人の従業員たる地位と少しも矛盾するものではない。この種の零細な加工業界では、従業員のアルバイトなどは珍しいことではない。控訴人の売上帳(甲第一号証)に記載されていないのは、当然である。反面調査の結果(乙第一号証)が武蔵野金属工業所において「山川製作所」と表示しているとしても、それは、同社が控訴人と芳三を区別せず、便宜そうしているだけのことである。これが控訴人との取引となるのは、昭和四七年からである。

(二) 同じく「2サイタ工業」の分は、右売上帳に記載されているとおり合計二一万七三〇〇円である。この金額は、控訴人主張の額と異なるが、右記載は年中決済額であるから、何ら誤りはない。控訴人は、申告の際、これに未収金三万二五〇〇円を加算して、二四万九八〇〇円と計上したのである。本件更正処分(昭和四五年分)は、これらの点を誤認したのであり、被控訴人審判所長の裁決によつて、控訴人の主張どおり減額訂正されたのである。

(三) 同じく「3サイタエレベーター製造」の分は、右売上帳の記載によれば、合計四〇三万九四七二円となるが、年初年末の未収金の計算により、収入金額は、四〇一万七八三八円となる。反面調査の結果(乙五号証)をより正確とする根拠は何もない。

(四) 同じく「5ミツミ精工」の分は、右売上帳の記載によれば、合計一〇六万八六三八円となるが、これも年初年末の未収金の計算により、収入金額は、一〇一万二一三六円となる。反面調査の結果(乙九号証の一)をより正確とする根拠は何もない。

(五) 同じく「4半田プレス工業」の分は、右売上帳の記載によれば、合計一四七万一三八四円となるが、年初年末の未収金の計算により、収入金額は、一七〇万〇三五八円となる。

(六) 以上(二)ないし(五)の分と「6赤井製作所」に対する売上金九万五八〇〇円及び「7雑収入」三万四〇〇〇円を合算した七一〇万九九三二円が控訴人主張の収入金額である。

6  (原判決一七丁裏2(一)の主張の補充)

(一) 原判決添付別表二の2のうち、「1武蔵野金属工業所」の分は、前年分におけるそれと同じで、山川芳三のアルバイトであり、控訴人の収入ではない。反面調査の結果(乙第二号証)についても、同じである。

(二) 同じく「2サイタ工業」の分は、前記売上帳に記載されているとおり合計七六万二八九〇円である。この金額は、控訴人主張の額より少ないが、右記載は年中決済額であるから、何ら誤りはない。控訴人は、申告の際、これに年初年末の未収金を計算し、売上金額を八五万四二九〇円としたのである。

(三) 同じく「3サイタエレベーター製造」の分は、右売上帳記載のとおり年中決済額が合計一六二万七一九七円のところ、年初年末の未収金の計算により、申告の際、売上金額を一四九万五三二八円としたのである。被控訴人による反面調査の結果(乙第六号証)では、決済額から材料代を控除すれば、控訴人の売上帳と完全に一致する。材料は支給であるから、売上から除外すべきは当然である。

(四) 同じく「4半田プレス工業」の分は、右売上帳に記載されているとおり合計一八六万〇三二六円である。控訴人は、申告の際、これに年初年末の未収金を計算し、売上金額を一八三万三七八七円としたのである。

(五) 同じく「7東志」の分は、右売上帳記載のとおり一〇二万六七二二円である。反面調査の結果(乙第一〇号証)のほうが信用性が高いとすべき根拠はない。

(六) 同じく「9丸大製作所」の分は、八万七〇〇〇円の未収金が計上されている。年中決済額を記入している右売上帳に記載のないのは当然である。反面調査の結果(乙第一一号証)に示されている九月と一一月の金額は、控訴人のものとしては存在しない。

(七) 同じく「5ミツミ精工」及び「6ミツミ電機」の分は、右売上帳記載のとおり一七二万八一二六円である。控訴人は、申告の際、これに年初年末の未収金を計算し、売上金額を一七九万三九四七円としたのである。

(八) 同じく「12日野電気工業」の分は、八万三九八〇円の未収金が計上されている。右(六)と同様、年中決済額を記入している売上帳に記載のないのは当然である。ただし、反面調査の結果(乙第一三号証)との比較において、いずれかに送料二〇〇円のほか一〇〇〇円の計算の誤りがあると思われる。

7  (原判決二四丁裏2(一)、同二五丁表(二)の主張の補充)

(一) 原判決は、右(一)(二)の各主張をもつて不適法としているが、控訴人は、各原処分の取消を求めて本件審査請求に及んだものであるから、その裁決手続が適法かつ公正に行われるかどうかは、裁決の結果に直接影響を及ぼすべきものであるばかりでなく、それ自体手続的正義の保障の観点から重要な意義をもち、ないがしろにできない筋合である。

(二) 本件審査請求に対する裁決手続において、首席国税審判官が、控訴人に対し、計数説明資料の提出を求めた行為は、何らの法的権限に基づくことなく、しかも、審査請求に対する裁決手続が違法な処分を受けた者に対する救済を目的としたものであり、審理されるべき対象が原処分の理由の有無にあるという制度的特質を理解せず、これと全く矛盾するものといわねばならない。控訴人の本件審査請求は、国税通則法八七条一項に掲げる事項を遺漏なく記載した書面をもつて適法に行われているのであるから、被控訴人審判所長から同法九一条による補正を求められるべき理由も必要もない。本件審査請求書を受理した右被控訴人は、これを却下すべきものでないときは、同法九三条により原処分庁たる被控訴人税務署長に答弁書の提出を求め、答弁書が提出されたとき、同法九四条により担当審判官等を指定し、控訴人に通知すべきである。審理の必要上、審査請求人に計数説明を求め、あるいは資料の提出を要求すべきときは、同法九七条一項一号に基づいて担当審判官が行うのが手続上の筋道である。

8  (原判決二五丁裏(三)の主張の補充)

被控訴人審判所長は、控訴人からの関係書類閲覧請求を拒否した点について、関係書類の中に被調査者の個人的秘密事項が含まれていたことをその理由として主張し、原判決は、右主張を是認する旨の判断を示しているが、右主張を裏づける資料はない。右主張を容認することは、第三者的中立機関であるべき被控訴人審判所長が、原処分庁にとつて税務調査の障害になる一般的可能性を口実に、控訴人の万全な防禦の具体的機会に制約を加え、これを犠牲にし、裁決手続の公正の保障を無意味ならしめるにひとしいものである。

三  被控訴人税務署長の追加主張

1  (原判決八丁表3(一)の主張の補充、控訴人の追加主張1に対する反論)

(一) 所沢税務署の当該職員が、昭和四八年八、九月、控訴人に対する税務調査として帳簿書類の提示を再三求めた過程において、控訴人自身は、帳簿の管理(作成保管)は一切弟貞治に任せてある旨述べる等して帳簿書類の提出をしなかつたのみならず、貞治に対し、係官に帳簿書類を提示すべく促すようなことも一切せず、一方、貞治自身は、民商会員を調査現場に集合させるなどし、かたくなに、調査の事前通知の欠如を非難したり、調査理由の告知、帳簿の過誤部分の指摘を求めたりに終始したものである。控訴人は、同年八月一〇日、貞治宅において係官に帳簿書類を提示したというが、当日、同人宅には、控訴人、貞治のほか民商会員多数が参集しており、貞治宅の居室内でテーブルを挟み控訴人らと係官らが対座した際にも、貞治は、具体的な調査理由の告知がない限り帳簿書類の提示には応じないとの態度をとり、その提示を拒絶したのである。もつとも、その際、右テーブルの上には、薄茶色のボール箱のような紙箱とテープレコーダーが置かれており、その後、同所に居合わせた控訴人の補助者と称する多数の民商会員のうちの吉村勝春が、この紙箱の中から帳簿ようのものを一冊取り出し、表紙部分だけを示して、このとおり備え付けてあるから確認するようにと述べたので、調査に従事していた中島係官がそれを受け取ろうとして手を伸ばしたところ、吉村はそれを手渡すどころか、逆に箱にしまいこんでしまつたため(紙箱がテーブルの上にあつた時は誰も箱の内にあるものを取り出す等して係官に帳簿書類として提示しようとはしなかつた。)、その帳簿ようのものが果たして控訴人に係る帳簿書類であつたのか否かの確認すらできなかつた経緯がある。右八月一〇日を含めその前後において、控訴人側は、被控訴人に対し、一切帳簿書類を提示しなかつたものであり、調査拒否と判断するほかはないのである。控訴人が主張するような、「帳簿書類を準備し、これを当該職員の面前に提示してその存在を確認させた」とか「職員がこれを手に取るのを物理的に阻止した事実はなく、また職員が手を伸ばして取ろうとしたこともない」などといつた事実は全くないのである。

(二) 控訴人は、本件調査は事前通知なくして行われたものであり、控訴人がこれに対応できなかつたとしても調査拒否と評価されるべきではないと主張するが、当該職員が控訴人宅等に臨場したのは、昭和四八年八月一日から九月一八日までの約一か月半の間の五回に及んでおり、しかも、この間にも当該職員と控訴人側との接触があつたものであつて、控訴人が主張のように零細な自営業者であるからといつて本件調査に対応できない事情にあつたとは到底いえないし、また、調査の過程では、調査の事前通知も調査理由の告知もしていたものである。

2  (原判決一五丁裏及び一八丁裏の各2(一)の主張の補充、控訴人の追加主張5、6に対する反論)

(一) 原判決添付別表一、同二の各2記載の「武蔵野工業所」分の収入は、控訴人の収入であつて、山川芳三のアルバイト収入とみる余地はない。すなわち、当該各年度当時、控訴人方でプレス機械を作動させていた者は、控訴人の従業員等の貞治、芳三及び控訴人の二男弘行の三名で、貞治も芳三も自ら機械設備を有するものではない。同人らのアルバイトと称する作業は、休日に、又は残業として行われたが、互に手伝うこともあつたというものであり、その作業は、控訴人の事業と同じプレス加工であつた。更に、その取引先は、すべて控訴人の取引先であつて、そのいずれにおいても、控訴人との取引と認識していた。したがつて、控訴人の主張する芳三のアルバイトと称する作業は、実は控訴人の事業そのものにほかならないのである。

(二) 控訴人は、サイタ工業分その他の収入について、被控訴人の反面調査結果が控訴人の売上帳の記載より合理的であるとする根拠はないなどと主張しているが、右反面調査結果の内容に照らして、控訴人の売上帳の記載がその取引を網羅したものとは到底いえず、控訴人の主張は証拠の評価を誤つた見解によるものである。

四  被控訴人審判所長の追加主張

(原判決二七丁表(三)の主張の補充、控訴人の追加主張8に対する反論)

審査請求人から閲覧請求のあつた所得調査書に、第三者の利益を害するおそれのある部分ないし行政上の秘密に属する部分があり、閲覧請求を拒否すべき正当な理由がある場合において、担当審判官がその所得調査書の閲覧に代えて公表可能な部分を抽出、要約した所得調査書等要約書を作成してこれを審査請求人に閲覧させることは、実質的にその者の裁決審査段階における防禦権の行使に何ら妨げとなるものではなく、防禦権は実質的に保障されたものというべきである。控訴人に閲覧させた本件の所得調査書等要約書は、被控訴人審判所長所部担当官が公表可能な部分を所得調査書からできるだけ原本に忠実に抽出して要約したもので、形式は異なるものの、第三者の利益を害するおそれがある部分及び行政上の秘密に属する部分を除けば、両者は同一の内容である。したがつて、控訴人に当該所得調査書それ自体を閲覧させなかつたからといつて、控訴人の防禦の具体的機会に制約を加え、これを犠牲にしたということはなく、この点についての控訴人の右主張は失当である。

第三証拠関係<省略>

理由

一  当裁判所は、当審において新たに提出された各資料を含む本件全資料を検討した結果、本件各処分及び裁決の取消を求める控訴人の本訴各請求はいずれも理由がなく棄却すべきものと判断する。その理由は、次のとおり加除・補正をするほか、原判決の理由説示(原判決二七丁裏末行から同五四丁表七行目まで)と同じであるから、これを引用する。

二  (本件青色承認取消処分の取消請求について)

1  原判決二八丁表二行目の「争いがない。」の次に行を改めて、「被控訴人税務署長の控訴人に対する本件青色承認取消処分は、控訴人が青色申告者としてその業務について備付け、記録及び保存をすべき帳簿書類につき、所沢税務署の当該職員の調査要求に応じなかつたとして、このことが、青色承認取消事由を定めた所得税法一五〇条一項一号の事由に該当するという理由によるものであることもまた、当事者間に争いがない。」を加える。

2  同二八丁裏二行目の「原告経営の」を削除し、同じ行の「工場」の次に「(弁論の全趣旨によれば、この工場は、貞治が仕事をしている控訴人経営のものと認められる。)」を加える。

3  同二八丁裏九行目の「貞治が、帳簿は自宅に置いてあり、」を「貞治は、帳簿は自宅に置いてあつて応じられないとし、その後、」と改める。

4  同二九丁表二行目の「調査の具体的理由の」から三行目の「提示しなかつた。」までを「控訴人及び貞治らは、調査の具体的理由の告知を求めて帳簿書類を提示せず、物別れとなつた。」と、五行目の「原告は帳簿書類を提示しなかつた。」を「この折にも調査を進めるまでには至らなかつた。」と、それぞれ改める。

5  同二九丁裏二行目の「前記1の」から五行目の「証拠はない。」までを削除し、六行目の「かえつて、」から七行目の「総合すると、」までを「そして、原審証人山口悦男、同中島達男(第一、第二回)、原審及び当審証人山川貞治(各一部)の各証言を総合すると、」と改める。

6  同三一丁裏一〇、一一行目の「前同様述べたが、」を「帳簿書類を控訴人方に持つて来て調査に協力するように促したが、」と改める。

7  同三二丁裏五行目の「以上のとおり認められる。」の次に「前顕証人山川貞治、原審証人吉村勝春の各証言中、以上の認定に抵触する部分は、前顕各採用証拠に比照して信用することができず、他に、以上の認定を左右する証拠はない。」を加える。

8  同三二丁裏六行目の「右1の」から一〇行目の「失当である。」までを次のとおり改める。

「右1、2の各事実関係によれば、所沢税務署の当該職員は、昭和四八年八月から九月にかけて前後五回にわたり控訴人方又は控訴人経営の工場等に赴き、直接控訴人に対し、また、控訴人が帳簿書類の備付け等の一切を任せているという貞治に対し、控訴人に対する税務調査を遂行するため帳簿書類を提示するよう再三にわたり申し入れたのに対し、控訴人は、その側にある者らの助勢をも得た上、正当の理由なく帳簿書類の提示を拒み続け、当該職員の控訴人に対する税務調査を妨げたものといわなければならない。控訴人は、この点につき、当該職員による控訴人に対する税務調査は社会的相当性を欠いていたなどと主張するが、右主張事実を認めるに足りる証拠はなく、当該職員が控訴人に対し帳簿書類の提示を求めた回数、期間、場所、態様等一連の経緯に関する前記認定説示の事実関係にかんがみると、控訴人の営業規模等の実情を考慮に容れてもなお、右主張は理由がないことが明らかである。」

9  同三三丁表二行目の「税務職員が、」から同三七丁表一、二行目の「失当である。」まで(控訴人が帳簿書類の調査に応じなかつたことは所得税法((この項において、以下「法」という。))一五〇条一項一号の事由に該らないとする控訴人の主張に対する判断)を次のとおり改める。

「(一) しかしながら、青色申告の承認を受けている者が、税務署の当該職員から、法二三四条の質問検査権に基づき、法一四八条一項により備付け等を義務付けられている帳簿書類の提示を求められたのに対し、正当の理由なくこれを拒否し提示しなかつた場合には、青色申告承認の取消事由として法一五〇条一項一号が定める、帳簿書類の備付け、記録又は保存が大蔵省令で定めるところに従つて行われていない場合に該当すると解するのが相当である。けだし、法一四八条一項所定の帳簿書類の備付け等が行われていないことは、一方において青色申告承認申請の却下事由とされ(法一四五条一号)、他方において青色申告承認の取消事由とされており(法一五〇条一項一号)、また、青色申告者に対する更正処分は原則としてその者の所定の帳簿書類の調査を通じてのみし得ることとされ(法一五五条一項)、青色申告者に対するいわゆる推計課税は禁止されている(法一五六条)が、このような法の趣旨に照らし、事理に即して考えると、青色申告制度は、単に所定の帳簿書類の備付け等が、青色申告者の側においてひとり行われているということだけでなく、他方、そのような帳簿書類の状況が当該職員の質問検査権に基づく調査により確認できる状態にあることを不可欠・当然の前提要件としていることが明らかであり、したがつて、法一四八条一項所定の帳簿書類の備付け等の意味内容は、当該職員がその提示閲覧を求めた場合にはこれに応じ、当該職員において右帳簿書類を確認し得るような状態に置くべきことを当然に含むものと解されるからである。青色申告者が帳簿書類に対する当該職員の調査を拒否することにより、その備付け等が正しく行われているか否かを当該職員において確認し得ない場合にも、その者に青色申告承認による特典を享受させることは、叙上の制度の予想せざるところどいうべく、その制度の本旨に反し、極めて不合理である。

このように解することは、帳簿書類の調査拒否の事実をもつて、その備付け、記録又は保存がされていない場合と別個の青色承認の取消事由としようとするものではなく、青色申告制度の本旨・法意にそう法條の合理的解釈として、所定の帳簿書類の備付け等は、当該職員からの提示・閲覧の要求に応じ得るものでなければならないとするのであるから、これをもつて、立法的解釈ないしは租税法律主義違反とする非難(引用原判決六丁裏(3))は当たらない。

(二) 控訴人は、所沢税務署の当該職員の控訴人に対する帳簿書類の提示要求は、具体的かつ正当な調査理由の告知がなかつたから、これに応じる義務はなかつた旨主張するが、税務署の当該職員が納税者に対し質問検査権を行使するに当たり、調査の理由ないし必要性を個別的、具体的に告知しなければならない法律上の義務は存しないし、控訴人の帳簿書類の提示拒否が正当の理由なく行われたものであることについては前叙のとおりであるから、右主張は理由がない。また、帳簿書類の提示拒否の事実から、その備付け等がされていないと認めることを非難する控訴人の主張(引用原判決六丁表(2)、同裏(4))は、前叙説示と異なる見解を前提とするものであり、採用することができない。

なお、控訴人は、青色申告の承認がされた場合には、帳簿書類の備付け等がされていると認定されたことになると主張する(引用原判決六丁表(2))が、控訴人に対する青色承認は法一四七条により承認があつたものとみなされたものであることは、引用原判決(二九丁裏(一))説示のとおりであるし、所定の帳簿書類の備付け等は継続して行われていなければならないものであるから、右主張は失当である。

(三) 本件において、控訴人が所沢税務署の当該職員から、税務調査のため帳簿書類を提示するよう再三求められたのに、正当の理由なくこれを拒み続けたことについては、加除・補正の上引用の原判決理由二のとおりであるから、控訴人は、当該職員からの提示、閲覧の要求に応じ得る状態の下に所定の帳簿書類の備付け等をしていなかつたものであり、したがつて、当時控訴人の帳簿書類が客観的にどのような状況に置かれていたかにかかわりなく、控訴人には法一五〇条一項一号所定の青色承認取消事由が存在するに至つたものといわなければならない。」

10  同三七丁裏末行の「失当である。」の次に行を改めて、「右の点に係る控訴人の当審における追加主張3を参酌検討しても、右通知書の記載は、処分の原因となつた具体的事実の記載として十分というを妨げず、叙上説示の認定判断を左右するには足りない。」を加える。

11  同三八丁表四行目の冒頭から六行目の「失当である。」まで(本件青色承認取消処分に対する異議手続において、帳簿書類を提示し、調査に応じたことにより、青色承認取消事由が消滅した旨の控訴人の主張に対する判断)を次のとおり改める。

しかしながら、所得税法一五〇条一項一号所定の青色承認取消事由の意味内容が前叙のとおりであり、控訴人が当該職員からの帳簿書類の提示要請を拒んだために右取消事由に該当するものとして青色承認取消処分を受けたものである以上、右処分の効力は、前叙のとおり当時控訴人の帳簿書類が、当該職員の認識しえないところで、控訴人の側において、ひとり、どのような状況に置かれていたかにより左右されるものではなく、控訴人が後日の異議手続において帳簿書類を提示して調査に応じても、もはや右処分の効力に影響をもたらすものではないというべきである。

原本の存在・成立につき争いのない甲第二五号証の一ないし三によれば、控訴人が当審において主張するとおり、税務調査の際帳簿書類の提示を拒んだことを理由とする青色申告の承認取消処分を、これに対する異議手続において決定により取り消した事例が存するが、右決定事例は、本件とは処分の前提たる事実経過を異にするばかりでなく、異議申立段階で所定の帳簿書類の存在が明らかになつたことを取消の理由とするものではないと認められ、いずれにしても、右決定事例をもつて、叙上の説示、判断を左右する資料とするには足りない。」

三  (昭和四五年分更正処分取消請求について)

1  原判決三八丁裏三行目の「別表一の一」を「別表一の1」と訂正する。

2  同三八丁裏六行目の「収入金額」の次に行を改めて、「控訴人の営業上の同年分収入に関する別表一の2について順次判断する。」を、八行目の「証人山川貞治の証言」の次に「(原審及び当審。以下同じ)」を、それぞれ加える。

3  同三九丁表八、九行目の「武蔵野金属工業所は」とある部分を「有限会社武蔵野金属工業所は、右乙第一号証記載の月別取引は」と改める。

4  同三九丁裏六行目の「(二) サイタ工業分」から同四一丁裏末行までを次のとおり改める。

「(二) サイタ工業分

成立につき争いのない甲第二一号証及び弁論の全趣旨によれば、本年分更正処分に対する審査請求の結果、被控訴人審判所長の裁決において、この分の収入金額は控訴人主張のとおり二四万九八〇〇円と認定され(右収入金額が右認定額より更に低い額と認めるに足りる証拠はない。)、これを前提として当該更正処分の一部取消の措置が採られていることが認められ、右裁決により取り消された部分は本訴請求の対象とされていないから、この分については、当裁判所の判断の限りでない。

(三) サイタエレベーター製造分

成立につき争いのない乙第五号証及び弁論の全趣旨によれば、控訴人が本年中にサイタエレベーター製造株式会社との取引により取得した売掛債権は、右乙第五号証中仕入金額欄の合計四〇三万二二五〇円(「年中決済金額四〇五万二一七二円+年末未収金二七万〇一一六円―年初未収金二九万〇〇三八円」に一致する。)から協力会費として計上されている一万二〇〇〇円及び送金料として計上されている一〇〇円を差し引いた四〇二万〇一五〇円と認められる。甲第一号証(成立は、原審証人山川陽子の証言により認める。)、前顕甲第二一号証及び丙第三号証(成立につき争いはない。)中、右認定に抵触する各記載部分は、にわかに採用し難く、他に右認定を左右する証拠はない。

(四) 半田プレス工業分

この分は、控訴人主張額(一七〇万〇三五八円)より被控訴人税務署長主張額(一六八万〇一三九円)のほうが低額であり、本年分更正処分が右被控訴人税務署長主張額を前提として税額を算定していることは弁論の全趣旨からして明らかであり、他方、この分の収入金額が一六八万〇一三九円より更に低い額であることを認めるに足りる証拠はないから、右収入金額は一六八万〇一三九円であることを前提として判断することとし、右被控訴人税務署長主張額の相当性についての判断はしない。

(五) ミツミ精工分

成立につき争いのない乙第九号証の一・二、原審証人山口悦男の証言及び弁論の全趣旨によれば、控訴人が本年中にミツミ精工株式会社との取引により取得した売掛債権は、本年中支払額一〇〇万一五四七円に年末未収金八万八一七〇円を加算した一〇八万九七一七円と認められる。前顕甲第一、第二一号証中右認定に抵触する記載部分及び当審証人山川貞治の証言もいまだ右認定を左右するに足りない(右甲第二一号証により、直ちに、右一〇八万九七一七円から控除すべき年初未収金六万七〇九一円が存在したものとは認め難い。)。他に右認定を左右する証拠はない。

(六) 赤井製作所分(九万五八〇〇円)及び雑収入分(三万四〇〇〇円)については、当事者間に争いがない。

(七) 右(一)ないし(六)認定説示の事実関係によれば、控訴人の営業上の昭和四五年分収入金額は七四五万八九四六円となり、被告税務署長主張額七四九万八二四六円より低い額であるが、被控訴人審判所長の裁決により認定された七三九万七二五五円(前顕甲第二一号証による。)を下回るものではないことが明らかである。」

5  同四二丁表末行の「以上の」から同四二丁裏九行目の「理由がない。」までを次のとおり改める。

「以上の事実関係及び弁論の全趣旨によれば、控訴人の昭和四五年分の総所得金額及びこれに対する所得税並びに右総所得につき過少申告をしたことに伴う過少申告加算税は、いずれも、被控訴人審判所長の裁決により認定された、総所得額一八五万五〇七四円、所得税一四万四七〇〇円、過少申告加算税二三〇〇円を下回るものではないことが明らかである。」

6  同四二丁裏一〇行目の「四」を「三」と改め、その次の行(末行)の「過少申告加算税賦課処分」の次に「(ただし、いずれも、現に効力を有する部分、なお、更正処分については二万八二〇〇円を超える部分)」を加える。

四  (昭和四六年分更正処分取消請求について)

1  原判決四三丁表九行目の「収入金額」の次に行を改めて、「控訴人の営業上の同年分収入に関する別表二の2について順次判断する。」を加える。

2  同四三丁裏九行目の「(二) サイタ工業分」から同四七丁表二行目の「失当である。」までを次のとおり改める。

「(二) サイタ工業分

成立につき争いのない乙第四号証によれば、控訴人が本年中にサイタ工業株式会社に材料を売り渡したことにより取得した代金債権は八九万二六一五円と認められる。前顕甲第一、第二一号証及び丙第三号証中、右認定に抵触する各記載部分は、にわかに採用し難く、他に右認定を左右する証拠はない。

(三) サイタエレベーター製造分

成立につき争いのない乙第六号証及び弁論の全趣旨によれば、控訴人が昭和四六年中にサイタエレベーター製造株式会社との取引により取得した売掛債権は、乙第六号証中仕入金額欄の合計一七一万九五八四円から協力会費として計上されている一万二〇〇〇円を控除した一七〇万七五八四円と認められる。

乙第六号証中決済金額欄の合計額から「材料代」とされている分を差し引くと、控訴人主張の年中決済額一六二万七一九七円に合致することは控訴人主張のとおりであるが、前顕甲第一号証及び当審証人山川貞治の証言によつても、いまだ、乙第六号証中の「材料代」とされている分が、右認定の売掛債権一七〇万七五八四円から控除すべき性質のものと認めることはできない。他に右認定を左右する証拠はない。

(四) 半田プレス工業分

成立につき争いのない乙第八号証によれば、控訴人が本年中に有限会社半田プレス工業との取引により取得した売掛債権は一八五万一五〇三円と認められる。前顕甲第一号証及び丙第三号証中右認定に抵触する記載部分はにわかに採用し難く、他に右認定を左右する証拠はない。

(五) ミツミ精工・ミツミ電機分

前顕原審証人山口の証言によれば、ミツミ精工株式会社は昭和四六年末ごろミツミ電機株式会社に吸収されたものであるが、これらの分は、控訴人主張(一七九万三九四七円)より被控訴人税務署長主張額(合計一六九万四三七五円)のほうが低額であり、本年分更正処分が右被控訴人税務署長主張額を前提として税額を算定していることは弁論の全趣旨からして明らかであり、他方、これらの分の収入金額が一六九万四三七五円より更に低い額であることを認めるに足りる証拠はないから、右収入金額は一六九万四三七五円であることを前提として判断することとし、右被控訴人税務署長主張額の相当性についての判断はしない。

(六) 東志分

成立につき争いのない乙第一〇号証によれば、控訴人が昭和四六年中に東志株式会社との取引により取得した売掛債権は一〇八万七四五八円と認められる。前顕甲第一、第二一号証及び丙第三号証中右認定に抵触する各記載部分は採用し難く、他に右認定を左右する証拠はない。

(七) 丸大製作所分

原審証人小林義雄の証言及び右証言により成立を認める乙第一一号証によれば、控訴人は、昭和四六年九月から一二月までの間、株式会社丸大製作所(以下「丸大」という。)と部品加工の取引をし、控訴人が四三万五四五七円の加工賃債権を取得したことが認められる。右乙第一一号証中には、丸大の右取引の相手方について「山川製作所(山川貞治)」との記載が見受けられるが、右証人小林の証言によれば、右記載は、右取引につき丸大に出入りしていたのは貞治(控訴人の弟)であることを示す趣旨で、丸大の取締役大和雅永(代表取締役の妻)により記載されたにすぎないもので、取引先が貞治であることを示す趣旨のものではないと認められる。また、原審証人山川貞治の証言中、乙第一一号証記載の丸大との取引は貞治のアルバイトであつて、控訴人によるものではないとする部分は、武蔵野金属工業所分が芳三のアルバイトであるとする右証人の証言を不採用としたのと同旨の理由により、更には、乙第一一号証中の年末未決済分八万七〇〇〇円が、控訴人の帳簿である前顕甲第一号証において、丸大に対する控訴人の昭和四七年年初繰越残(未収金)として計上されている事実に照らし、信用することができない。前顕甲二一号証及び丙第三号証中右認定に抵触する各記載部分は採用し難く、他に右認定を左右する証拠はない。

(八) 日野電気工業分

成立につき争いのない乙第一三号証、前顕原審証人山口の証言によれば、控訴人が昭和四六年中に日野電気工業株式会社との取引により得た収入は、売掛債権八万二九八〇円から振込手数料二〇〇円を差し引いた八万二七八〇円と認められる。この認定を左右する証拠はない。

(九) ゼネラル分(三二万八七六六円)、荒幡製作所分(二万二〇五〇円)、武田製作所分(八万三〇〇〇円)及び雑収入分(九万二三六〇円)については、当事者間に争いがない。

(一〇) 右(一)ないし(九)認定説示の事実関係によれば、控訴人の営業上の昭和四六年分収入金額の合計は八五六万三一〇八円となり、被控訴人主張額八五六万一七五八円(別表二の1)を下回るものではないことが明らかである。」

3  同四七丁裏一〇行目の「相当とみられる。」を「相当と認められる。」と改め、その次に「右認定を左右する証拠はない。」を加える。

4  同四七丁裏末行の「以上の」から同四八丁表八、九行目の「見当らない。」までを次のとおり改める。

「 以上の事実関係及び弁論の全趣旨によれば、控訴人の昭和四六年分の総所得金額及びこれに対する所得税並びに右総所得につき過少申告をしたことに伴う過少申告加算税は、いずれも、被控訴人税務署長の本年分に係る更正処分により定められた額(ただし、過少申告加算税については、異議手続により更正された額)を下回るものではないことが明らかである。」

5  同四八丁表一〇行目の「四」を「三」と改め、右一〇行目から末行にかけての「更正処分」の次に「(ただし、二万七九〇〇円を超える部分)」を、末行の「賦課処分」の次に「(ただし、現に効力を有する部分)」を、それぞれ加える。

五  (昭和四七年分更正処分取消請求について)

原判決四九丁表末行の「右推計が相当であるとみられる。」を「右推計は相当と認められる。」と改める。

六  (裁決取消請求について)

1  原判決五一丁裏四行目の「不適法である。」の次に「なお、前顕甲第二一号証によれば、被控訴人審判所長の右裁決においては、青色申告者が、税務署の当該職員から、税務調査のために所定の帳簿書類の提示を求められたのに、これに応じなかつた場合には、所定の帳簿書類を備え付け、記録し、かつ、保存すべき義務を果たしていないことになる趣旨を説示し、控訴人に対する所沢税務署の当該職員による税務調査に際しての控訴人の対応がこの場合に当たることも明示しており、また、異議等に対する審理段階で帳簿書類の提示があつても、税務調査段階における帳簿書類の提示拒否による青色承認取消事由の発生を解消させるものではない旨の判断も示しているものであつて、所論のような判断遺脱ないし理由不備の違法はないことが明らかである。」を加える。

2  同五一丁裏五、六行目の「再審査請求」を「審査請求」と訂正する。

3  同五一丁裏末行の「不適法というべきである。」の次に「なお、成立につき争いのない丙第一号証、いずれも原審における証人長岡四郎の証言及び被控訴人税務署長大島正男(当時)本人尋問の結果によれば、控訴人主張のとおり首席国税審判官は控訴人に対し審査請求につき計数的な説明資料の提出を求めたが、その趣旨、目的、方法及び根拠は、いずれも被控訴人審判所長主張のとおりであることが認められるので、その手続を違法とすべき理由はない。」を加える。

4  同五二丁裏八行目の「同被告」の次に「(担当審判官)」を加える。

5  同五三丁表二行目の「前項1」を「前項2」と訂正し、三行目の「所得調査書の記載中には、」を「控訴人に係る所得調査書には、」と改める。

6  同五三丁表末行の「原告の」からその裏二行目の「要約書」までを「少なくとも控訴人が審査請求手続において有効な攻撃防禦の手段を尽くし得るよう、できるだけ原本に忠実に、閲覧させることを可能とする部分を抽出し、本件各処分の理由を特定し、かつ、具体的に記載した所得調査書等要約書」と改める。

7  同五三丁裏四行目の「審判所長」の次に「(担当審判官)」を加える。

8  同五三丁裏八行目の「その他の部分につき」から同五四丁表一、二行目の「できない。」までを次のとおり改める。

「担当審判官は、右所得調査書のうちその他の部分については、これを控訴人に閲覧させるべきであるが、もともと、国税通則法九六条二項が、審査請求人は担当審判官に対し、原処分庁からの提出書類等の閲覧を求めることができるとしているのは、審査請求人がそれらを閲覧することにより当該処分の正当性の有無を検討し、これに対する攻撃防禦方法を講ずる参考に供する趣旨と解されるから、右認定のように、閲覧させることのできない部分とそれが可能な部分とが一体となつている場合には、閲覧可能部分を右認定のような要約書としてこれを閲覧させる方法によつても、これにより、控訴人の防禦権は実質的に保障され、右国税通則法の趣旨を満たすものであり、したがつて、原処分庁から提出された所得調査書それ自体を閲覧させなかつたからといつて、これを違法とすることはできない。」

七  以上の次第であるから、これと同旨の原判決は相当であり、本件控訴はすべて理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 後藤静思 奥平守男 尾方滋)

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